輸出管理に関する「法律」の制定

前回記事「【中国】商用暗号の輸出入管理に関する最新情報」では、商用暗号の輸出入に関する新しい制度について触れました。 

この基礎となっている「中華人民共和国輸出管理法」(国令第58号)(以下「輸出管理法」といいます。)も昨年施行されたばかりの重要な法律ですので、今回はそのポイントを簡単に説明したいと思います。この法律は、20201017日に公布され、同年121日に施行されたものです。それまでは、長きにわたって、中国では、輸出管理に関わる制度を統括する上位の法律を欠いたまま、不安定な法体系が続いているという状態でした。

輸出管理法の目的 

輸出管理法第1条では、その目的として、第一に「国の安全及び利益を維持及び保護すること」が定められており、法文上も折に触れてこの点が強調されています。国の「安全」のみならず、「利益」の保持が正面から定められている点が、中国らしいともいえます。これによって、法律に政治的な事情が組み込まれやすくなるのではないでしょうか。

例えば、この観点がよく表れていると感じられるのが、「いかなる国又は地域が輸出管理措置を濫用し中華人民共和国の安全及び利益を害した場合であっても、中華人民共和国は、実情に基づき、その国又は地域に対して対等の措置を講ずることができる。」とする第48条です。

対象品目は幅が広い

輸出管理の対象品目は、軍用品や核のほか、両用物品及び技術(軍事転用可能な民間の物品及び技術)等とされ、有体物のみならず、無形の技術も含まれます。「関連する技術資料等のデータ」が含まれることが明記されています(輸出管理法22項)。なお、前回記事で取り上げた商用暗号は、このうち「両用物品及び技術」に分類されています。

これら輸出管理の対象品目を輸出するにあたっては、輸出管理部門の許可を受ける必要があります(輸出管理法4条、12条等)。

違反した場合のペナルティ

輸出管理法に違反した場合には、行政処分の対象となるほか、態様に応じて刑事罰の対象にもなりますが(輸出管理法3343条)、事業者には輸出管理に関わるコンプライアンス制度を確立し運用することが求められ、この点優良な事業者には包括許可の便宜を与えることができるものとされています(輸出管理法14条)。

このように、「ムチ」とともに「アメ」を掲げて自主的な対応を促すアプローチも、中国らしいな、という印象を受けます。

(参考URL

《中华人民共和国出口管制法》全文 (mofcom.gov.cn)

Maki Shimoji