・・・前編から続く・・・
Ⅳ. 米中貿易戦争からみた日本企業の課題
1. 日本企業の課題
今回の貿易戦争を繰り広げているのは米国と中国であって、日本は直接の当事者ではない。にもかかわらず、日本企業がそこに巻き込まれ、右往左往しているのが実情である。各企業としては、目の前の状況に対応していかざるを得ないが、そのために多くの時間と費用をかけることは、本来的には勿体ないことである。
米中貿易戦争は、ハイテク分野における米中の覇権争いともいわれているが、そうであるならばなおさら、日本の企業のみが、対応に追われ長期的な企業戦略を疎かにするようなことがあってはならない。
ボーダレス化が進む中、日本の企業がいかにして自らのペースと意思で自由に判断できる状況を整えていくかを、真剣に考えていく必要があるように思う。受け身のポジションから脱却するため、いかにして付加価値重視の国際競争力を確保していくのかを、各企業ないし業界が自ら考え、実行していかなければならない。
2. 国際競争力を確保するためのポイント
日本の各企業ないし業界が、付加価値重視の国際競争力を確保していくためには、イノベーションへの取組み、パートナーとの提携、国際取引における主導権の獲得がポイントとなるであろう。
(1) イノベーションへの取組み
イノベーションへの取組みとしては、まず、技術の先進性を維持していくことが考えられる。真に代替の効かない物の需要は、外的な影響を受けにくい。この度の貿易戦争においても、そういったものについては、輸入国側企業への影響を避けるため、追加関税の対象から除外されるなどしている。
もっとも、経済のボーダレス化が著しく進む中にあっては特に、研究の成果を利益に繋げるための実践的なイノベーション、すなわち実用化に向けたアイデアの創出や新規需要・販路の開拓といった方面の重要性を意識せざるを得ない。いかに優れた技術であっても、活用の道がなければ宝の持ち腐れである。
すなわち、国際的優位性を得るためには、スピードを伴った市場志向の研究開発が求められる。
(2) パートナーとの提携
研究・技術開発の成果にスピードを求める場合、新たな協力者の存在が不可欠である場合が少なくない。また、アイデアを創出し、新規需要・販路を開拓するにあたっては、多様な経験と価値観、ネットワーク等を掛け合わせ、活用することが有益である。イノベーションを目指す企業にとって、ダイバーシティを高めることは必要条件と言ってよい。
したがって、日本の企業が国際競争力を保持するためには、国内外の情報を自ら積極的に収集することが必要であり、場面に応じた最適なパートナーを探し出すことが必要になってくる場合があろう。
パートナーの選択においては、漠然としたネガティブなイメージがあることのみをもって候補から排除するのは早計である。例えば、中国企業に対しては、「約束を守らない。」「よく裏切られる。」といった日本側の印象をよく耳にするが、実際には、文化・慣習の異なる外国企業と取引をするにも関わらず適当な対策をとって臨んでいなかったというケースが少なくない。
(3) 国際取引における主導権の獲得
パートナーとの提携を進めるにあたっては、主導権の獲得を意識して臨むことが重要である。具体的な提携の形態や契約の内容についてはケース・バイ・ケースで決まるものであるが、重要なのは、相手のペースに乗せられることなく、あくまで自らの判断に基づいて進めることである。
優良な知的財産や人材・開発チームを抱える企業こそ、外国企業からも提携の引き合いを受ける機会があるであろうが、そのような場面において、相手方の申し出に応じるか否かの二者択一で考えるべきではない。申し出に魅力を感じた場合であっても、提携の目的や形態、共同して実施しようとする事業の範囲等を自らも検討し、対案を出し、相手方と交渉すべきである。場合によっては、他のパートナー候補を探すことを視野に入れてもよい。
また、提携契約に向けて話を進める段になった場合においても、企業戦略の根幹に関わる重要な契約条件については、予め整理し、それを意識した上で契約交渉に臨むべきである。例えば、将来的にビジネスを展開する計画がある地域や分野があるという場合、その計画の足かせとなり得るような契約条件を受け入れることはできないであろう。ところが、相手方から提示される契約書の雛形を漫然と利用してしまったが故に、将来にわたって不本意な制限を受けてしまう場合がある。
なお、提携交渉のタイミングも、交渉上の主導権に影響するという点に留意されたい。例えば、資金繰り等の事情により限られた時間の中で選択を迫られる場合には、交渉上の立場が弱くなる。
Ⅴ. 国際競争力強化に向けた外国企業とのパートナーシップ
ここでは、日本の企業が外国の企業とのパートナーシップを通じて国際競争力の強化を目指す方法について検討したい。
1. パートナーシップの形態
外国企業とのパートナーシップといっても、提携の目的、各社の独立性や利益分配に対する考え方、その他の事情によって、その形態は様々である。
従来からの典型的なケースでは、例えば、日本製品を海外に販売することが目的である場合には、現地企業との間で代理店契約や販売店契約を締結したり、現地企業との共同出資により現地に販売会社を設立するなどが考えらえる。さらに、現地生産への切替えを目的とする場合には、現地企業に技術を供与し、合わせてその国のニーズに合わせた商品の現地化を図ることがある。
双方が業務上の役割分担を担う形での提携としては、資本提携を伴わない業務提携(技術業務提携・生産業務提携・販売業務提携等)と、資本提携を伴う業務提携(資本業務提携)に大別することができる。後者の方が、双方の結びつきが強くなる。
2. 研究開発のためのパートナーシップ
日本企業が国際競争力を獲得していくためには、前述したとおり、スピードを伴った市場志向の研究開発を目指す必要がある。外国の企業とともに共同研究開発を進めるというのは、そのアプローチの一つである。
ここでは、より強固な連携が期待できる資本業務提携に着目したい。
資本業務提携としては、理論上、自社への直接の資本参加、すなわち株式譲渡や第三者割当増資を通じて外国企業に自社の株式を取得させることも考えられるが、競争力獲得のための研究開発を目的とするのであれば、双方が出資する合弁会社においてこれを実施するメリットが大きいように思われる。合弁スキームにおいては、各自の独立性やブランドを維持しながら、目的の範囲に絞って深い連携を期待することができる。また、双方の責任の範囲や内容が明確になる上、相手方による自社情報へのアクセスをコントロールし、無用な干渉を回避しやすくなる。将来的には、相性を見た上で柔軟に提携の範囲を拡張することも可能であるし、矛盾を生じない限りでその他のパートナーと新たな提携関係を築く余地を残すこともできる。
3. 中小企業にとってのパートナーシップ
日本側が自分にとって最適なパートナーを得たいと考えるのと同様に、相手側も自らに相応しいパートナーを得たいと考えている。
したがって、日本企業がパートナーを得るための最初のステップは、自社の強みを知ることである。日本の中小企業においては、例えば、自社が抱える技術やノウハウ、知的財産、これらを生み出してきた人材・開発チームが、客観的にどの程度の価値をもち、活用できる可能性を秘めているのかを、真剣に考えてみることである。
筆者が実務に携わる中で得た感触では、近年、優れた技術や人材・開発チームをもつ日本企業を買収したいという外国企業は、非常に多くなっている。とりわけアグレッシブなのは中国系企業である。もっとも、彼らの思惑とは裏腹にその成約率は低く、そのためか、最近では、単独で日本に進出し研究開発拠点を設立した上で、豊富な資金力でもって個別に人材・開発チームを獲得しようとする動きすら見られるところである。このように、外国の企業が国際競争力の獲得・向上に向けて積極的に動く中にあって、日本の企業が仮に受け身の態勢であり続けたならば、いずれ価値ある人材や技術が徐々に流出してしまうことになるであろう。
次のステップは、自らの強みを積極的にアピールし、相手にその価値を認めてもらうことである。そして、自らが最適と考えるパートナー候補とビジョンを共有し、それに向けて役割分担等の必要なルールを決めていけばよい。
ただし、先に述べたとおり、ここでは自らが主導することを意識して契約交渉に臨むべきである。パートナーではあっても利害が相反する一面があることを念頭に置き、提携の範囲外の事業への影響、知的財産や情報の漏洩対策、利益の分配等について、事前に十分な検討を経ておくことが必須である。
この点、現時点での実例多くないようであるが、日本の人的資源を活用しようとする場合には、外国のパートナーとともに日本で合弁会社を設立し、それを世界市場に向けた研究開発の拠点とすることにも合理性があるのではないかと考える。
Ⅵ. おわりに
この度の米中貿易戦争では、他国の政策に振り回される日本企業の姿を見ることとなった。経済のクロスボーダー化が進む中では諸外国の動向による影響は不可避であるものの、中小企業を含む日本の企業が、このクロスボーダー化の波を味方につけ、自ら海外の情報を収集し、戦略を立て、攻めの姿勢で、着実に国際競争力を高めていくことを強く望む。
Maki Shimoji