消滅時効の再開始
これまで、日本と中国の時効制度について説明しましたので、これらと比較しながら簡単に説明したいと思います。
ベトナム法でも、日本法の時効の「更新」に相当する「再開始」という制度があります。
「再開始」となるのは、①義務の承認、②履行、③和解の3 つの場合です(ベトナム民法 157 条)。
中国法では、催告をすれば時効が「中断」(日本法でいうところの「更新」)しましたが、ベトナム法では、催告に時効を更新させる効果はありません。
また、ベトナム法では、そもそも時効の「完成猶予」の制度がありませんので、日本法のように、「催告」によって時効の完成が猶予されることもありません。
ですので、支払を求める通知を送って「催告」しただけでは、法的には意味がないことになります。
すぐに訴訟を提起することができないのであれば、覚書や合意書、義務を承認する旨の念書など、相手方が義務を承認したことを証拠に残しておく措置を講じておくことが必要ですが、これをするには工夫しなければなりません。
ベトナムの「保証」(人的担保)制度
少し脱線しますが、債権回収という観点から、ベトナムの保証制度についても調べてみました。
債権回収に確実性をもたせるためにとる手段として、日本では保証人をつけることも一般的で、お金を借りるときや家や事務所を借りたりするときなど、主債務者や保証人の立場を一度は経験されたことがある方が殆どだと思います。
ベトナム民法でも、こういった「保証」制度があります(ベトナム民法 292 条 7 項、335 条 1 項、339 条 1 項本文、342 条)。法律を見てみると、基本的に、日本の制度にかなり近いものとなっているようです。
例えば、
保証の範囲は、元本に対する利息、罰金、損害賠償金、遅延損害金に対する利息全額を含みますし(ベトナム民法 336 条 2 項,293 条 1 項)、
連帯保証に相当する規律もあるほか(ベトナム民法 338 条)、求償権に相当する規定(ベトナム民法 340 条)もあります。
ただ、保証が終了する場合のルールについては、少し面白い特徴が見られます。
保証は、次の場合に終了する。
(1) 被保証義務が消滅した場合。
(2) 保証が解除され、又はその他の担保措置により代替された場合。
(3)保証人が保証義務を履行した場合。
(4) 当事者が合意した場合。
(1)、(3)、(4)はわかりやすいのですが、日本の制度と比べて特徴的なのは、保証の終了事由として「その他の担保措置により代替された場合」が挙がっている点です。
代替するに足りる程度の「その他の担保措置」があれば、あえて人的担保を認める必要性はないとか、保証人を保護すべき、といった考え方があるのだと思われます。
実は、中国法にも同じような規定があったりします。
2か国だけを比較しただけでは、見えてこないものがあるとは思いませんか?
なお、中国法では、保証債務の時効については特殊なルールがありましたが、ベトナム法では、そういったルールは特に見つけられませんでした。
<Shota Hiratsuka / Maki Shimoji>